296　すべては心に始まり、心に終わる

思い返せば、半世紀を優に超える長い年月を、

私は会社経営という仕事に捧げてきました。

その道はけっして、楽で安全な道ではありませんでした。

いま振り返れば、まるで両脇が崖になっている、

危険きわまりない山の尾根を歩き続けてきたようなものです。

しかし不思議なもので、

進んでいくのを不安に思ったことはありませんでした。

何か大きなものに守られているような安心感があり、

その中で信頼と確信をもって歩いてこられたように思います。

あるいは、恐怖や躊ちゅう躇ちょを感じる余裕すらなかった

というほうが正しいかもしれません。

深い霧きりに覆われて、一寸先すら見えない。

そんな道を必死懸命に、目の前の一歩を踏みだすことだけを考えて、

ひたすら歩んできた。

あるとき、ふとたちこめていた霧が途切れ、

これまで来た道を振り返ってみたら、

初めて切り立った山の崖がけの上の道だったことに気づき、

背せ筋すじが凍こおる思いがした━━

たとえてみれば、そんな気持ちなのです。

自分の半生はんせいは、つねにそんな道のりばかりでしたが、

それでもどこか安らかな気持ちでやってこられたのは、

ある思いがあったからです。

━━純粋で美しい心をもってことにあたるならば、

何事もうまくいかないものはない。

つねに心を磨き、自己を高め続けていれば、

いかなる苦難に見舞われようと

運命は必ずやさしく微ほほ笑えみ返してくれる

━━

どこか信仰心にも似た、そんな信念が私の中に息づいていて、

ありがたいお守りのように私の人生を助け、守ってくれた。

そう思えてならないのです。

人生は、心のありようですべてが決まっていきます。

それは実に明確で、厳然げんぜんとした宇宙の法則です。

どんな人であっても、与えられているのは、

いまこの瞬間という時間しかありません。

そのいまをどんな心で生きるかが人生を決めています。

幸運が訪れることもあるし、

逆境に沈まざるを得ないこともあるのが人生で、

すべては自然がもたらしてくれたものです。

ですから、いまどんなにつらい境遇にあるとしても、

それにめげることなく、気負うことなく、

ただ前向きに歩んでいってほしいです。

そう考えれば、人生とは実にシンプルなものと言えます。

利他りたの心をベースに、

日々の生活の中で、できうる限りの努力を重ねていく。

そうすれば、必ずや運命は好転し、幸福な人生は訪れます。

そして、いかなるときも自分の心を美しく、純粋なものに保っておくことが大切です。

それこそが、自分の可能性を大きく花ひらかせる秘ひ訣けつであり、

幸福な人生への扉とびらを開く鍵かぎなのです。